胃がん検診 医師のアドバイス

胃がん検診 医師のアドバイス

安房医師会理事 野崎益司

 

かつて安房の胃集検制度は医師会病院が中心となり、一次検査・診断・精査および治療、さらには術後のフォローまで一環とした管理(安房方式)を行ったことで高く評価されてきました。また安房医師会病院と亀田総合病院との共同研究によって1995年に発表された当地の胃集検に関する調査・研究は、現行バリウムX線検査法の集団における胃がん死亡率減少効果を科学的に証明したものとして世界的にも注目されています。

 

しかしその後、国民の“集団から個別へ”という意識変貌は当地においても顕著に認められ、さらに外来診療における消化管の検査は専ら電子内視鏡装置を用いることが一般的となってきたことなどから、従来のバリウムX線検査法による胃がん検診受診率は平成4年をピークに減少の一途をたどっています。

 

ただ幸いなことに、これまで受診率の低下が胃がん死亡率の上昇をもたらしているという報告はなく、胃がん死亡率はむしろ年々減少しているのが現状です。恐らくこれは個別に検診(検査)を受けておられる人が増えていること、またこれからお話しをしますヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)感染者が明らかに減少しており、その結果胃がん罹患率(発生率)そのものが減少していることが原因していると考えられています。

 

とは言え、未だに胃がん検診対象者の約半数はピロリ菌感染者であり、今後とも集団を対象とした胃がん検診(胃集検)はどうしても継続していく必要があります。但しこれまでのように漠然とすべての対象者に対してX線検査を行うことはすでに時代遅れと言わざるを得ません。ましてや上述のように住民の胃集検離れはれっきとした事実であり、今後は受診者のニーズに即した方法を取り入れることによって、なるべく多くの方が検診を受けられるような検診制度の建直しが必要になってくるでしょう。

 

このような観点から、すでにいくつかの自治体でABC検診という方法が導入されるようになりました。この検査自体は胃がん検診ではありませんが、受診対象者のすべてにおいてピロリ菌の感染の有無、ペプシノーゲン法による萎縮性胃炎の判定を行い、これらの結果に基づいて受診者の胃がん発生危険度別にグループ分けを行い、それぞれに最適な検査法で管理をしていこうという考え方です。

 

まずAグループはこれまで一度もピロリ菌に感染したことがないと判断される人たちで、A判定された人は今後胃がんになることはまずないといっても過言ではありません。すなわち今後は定期的な胃集検を受ける必要がない人たちの集団です。

 

一方、ピロリ菌検査が陽性の方は胃粘膜の萎縮度(ペプシノーゲン法=PG法)によってBグループ(PG法陰性)とCグループ(PG法陽性)とに分けます。このグループに属する全員に対して除菌療法を行うかどうかは議論の別れるところですが、国は今年になってようやくピロリ菌感染胃炎に対する除菌療法を保険適応としました。残念ながらこれには内視鏡検査で慢性胃炎を認めたときに限るという要件が付加されたため、ABC検診の結果のみで保険診療としての除菌療法は受けることができません。但しワクチンの(一部)公費負担のように、今後国や地方自治体が費用の一部を負担し、積極的に除菌療法を行おうという試みはあっても不思議ではなく、除菌によって胃がん発生危険度が少しでも低減できるのなら、住民のみならず国や自治体にとってもこれほど喜ばしいことはないはずです。

 

ちょっと話しがそれましたが、BおよびCグループは定期的な検診が必要であり、とくに胃粘膜の萎縮がかなり進んでいるCグループに対しては内視鏡検診を導入します。さらにDグループはかつてピロリ菌が感染していたものの、すでに萎縮が高度となって現在はピロリ菌すら胃内に生存できなくなった人で、このグループに属する人の胃がん発生率は極めて高いとされており、必ず毎年内視鏡検査を受けるべきだと判断されます。

 

このように胃がん検診対象者を胃がん発生危険度の高い・低いによって、今後同検診を定期的に受けなくてもいい群から毎年厳重に医学的管理を行けるべき群まで、4段階のグループ分けを行うことにより極めて効率のいい胃がん検診が可能となると考えられています。

 

この制度をいつ導入するかはまだ未定ですが、早期にこれが実現できるように今後も自治体と医師会は話し合いを続けていく予定になっています。


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