大腸がん検診 医師のアドバイス
安房医師会理事 野崎益司
胃がん検診では、胃がんの発生とピロリ菌感染とは密接な関係があるというお話しをしましたが、では大腸がんの発生には何が最も影響を及ぼしているのでしょうか。
家族性に大腸がんが多発する遺伝子異常を除けば、一般的には肥満や赤肉(牛肉、豚肉)・加工肉の過食、飲酒および喫煙などが大腸がん発生の危険因子とされています。
逆にこれまで食物繊維の摂取は大腸がん発生の予防因子と考えられていましたが、最近の調査ではその効果は認められず、また便秘が大腸がん発生の誘因になるということも否定されています。
我が国における大腸がんの罹患率は昭和40年頃から急速に上昇しており、恐らく今後とも徐々に増加し続けると考えられています。ところが死亡率で見ると現在女性においては大腸がんが死亡原因の第一位となっていますが、男性では2000年以降若干減少傾向を示しているのです。
この理由がすべて大腸がん検診の効果だと断定することはできませんが、日本より受診率が高い欧米では大腸がん死亡率がどんどん低下してきているのです。
また我が国では平成2年に40~59歳の約4万人を対象に過去1年間内に便潜血検査を受けたかどうかのアンケート調査が行われ、その後13年間追跡調査が行われた結果、同検査を受けることによって大腸がん死亡率が70%も低下することがわかりました。すなわち、より多くの人が大腸がん検診を受ければ、大腸がんで亡くなる方はもっと少なくなるはずなのです。
さて現在行われている大腸がん検診は、まず便の提出という全く苦痛を伴わない一次検査から始まります。もっとも普段便秘症の方にとって2日間の便を提出するのは中々困難なことかもしれませんが、面倒だと感じなければ誰もが簡単に受けられる検査であることは間違いありません。
ところがこの検査で陽性(便潜血+)になると、次に精査として全大腸内視鏡検査を受ける必要があります。すでにこの検査を受けられた方は十分ご承知だと思いますが、検査の苦痛もさることながら、検査当日に前処置として2リットルの下剤を服用することも人によっては大変な作業になっているようです。
こんな大腸内視鏡検査に対する悪いイメージだけが原因になっているとは思えませんが、いずれにしても大腸がん検診の受診率が今もなお20%程度と国の目標値である50%を大きく下回っていることはとても残念なことです。そしてさらに重大な問題点は、便潜血が陽性になっても二次検査としての内視鏡検査(精査)を受ける人の割合が全国平均で約60%、大都市では何と半数以上の方が精査を受けていないのが現状なのです。折角一次検査で大腸がん発見のきっかけをつくってくれたのに、そのまま放置され、そして治療が困難な進行癌になってから外来受診される人も決して少なくないのです。
ところがここ安房では精検受診率が極めて高く、とくに90%を超える自治体が存在することは特筆すべきことです。これは住民の皆様の大腸内視鏡検査に対する受容性が極めて高いことを示している一方、自治体による積極的な受診勧奨がこのような結果に結びついているのではと考えています。
先に述べましたように、大腸がん検診を受けることによって集団における死亡率の低下はもとより、個人レベルにおいても大腸がん死亡リスクを大幅に減少させることができます。しかも医療機関によって多少の差異はありますが、早期大腸癌の場合は検査と同時に治療を受けることも可能であり、初診日と検査日のたった2日間で大腸がんが痛みを感ずることもなく、しかも日帰りで治療できるのです。
今後、便の提出を総合検診実施期間以外にも別枠設定して行えるかどうか、また現在受療中の患者さんが各医療機関で個別に便の提出ができるようなシステムが可能かどうかを検討しており、少なくとも国の目標値である受診率50%は是非とも早期に達成したいと考えています。
その一方で、医療機関側としては便潜血陽性者になるべく待ち時間がなく精査が受けていただけるような配慮を講じていきたいと考えており、将来は安房が最も大腸がん死亡率の低い地域として、全国から注目されるようになることを期待しています。